銭洲海嶺北部の伊豆諸島における後期完新世の隆起
- Keywords:
- Emerged marine sessile assemblage, 14C date, Holocene, Niijima, Shikinejima, Kouzushima
明応8月25日(1498年9月20日),西南日本沖で大地震が発生した.明応地震である.Ando(1975; Tectonophysics 27: 119-140)は南海トラフで発生した大地震の震源域を西からA―D領域に分割し,明応地震の破壊領域をC, D領域と推定した.現在の理解では,南海・駿河トラフの震源域は,Z,A―E領域に分割され(図a),明応地震ではE領域の破壊も連動した可能性があるとされている.だが,南海トラフ東部から新島・式根島付近までの領域を震源域とする説もある.羽鳥(1975; 地震研究所彙報, 50, 171-185)は,明応地震による津波の伝承が熊野から伊豆までの各地だけでなく,鎌倉と房総半島小湊にもあるので,南海トラフ東部から新島・式根島付近に津波の波源域を置いた(図b).さらに,羽鳥(1975)は静岡県下田,東京都新島・式根島の隆起貝層(福富, 1935; 地震, I,7,73-77, 福富, 1938; 地震, I,10, 1-4)を,明応地震の隆起の証拠とした.この妥当性を検討するため,太田ほか(1983; 地震, II, 36, 587-595)は,液体シンチレーション法で隆起貝層の14C年代測定を行った.その結果,新島・式根島の隆起年代は約1400年前と推定されたので,明応地震の可能性は否定された.一方,下田の隆起貝層については,Kitamura et al. (2014; Island Arc 23:51-61, 2015; Earth Planets Space 67:197 DOI10.1186/s40623-015-0367-z, 2016; Quat Inter 397: 541−555) が14C年代を加速器質量分析で測定し,隆起は下田沖の海底断層の活動によると結論した(図c).
本研究では,太田ほか(1983)が明応地震の証拠の可能性を否定した新島・式根島の隆起貝層の14C年代を加速器質量分析で測定するとともに,未調査の神津島で隆起貝層の調査を行った.その結果,4回の隆起イベントが識別され,それらの発生した年代範囲・最小隆起量は,イベント1は1950年以降で0.4-0.9 m,イベント2は西暦786-1891年で2.4-2.6 m,イベント3は西暦600-1165年で3.6 m,イベント4は西暦161-686年で3.3-8.1 m と推定された(図a).これらの隆起の主因は火山活動や中規模地震と考えられるが,イベント2の存在によって隆起貝層が明応地震の証拠である可能性が残された.