日本語要旨

中世温暖期と小氷期とで異なる夏季アジアモンスーンの季節進行 ―マルチ気候モデルによる検証―

地球上の気候は1,000年前から現在にかけて,太陽輝度や地球軌道要素の変動,火山噴火,人間活動の影響によって大きく変動していた.このうち,比較的温暖・寒冷な時代とされる,西暦950-1,250年の中世温暖期と西暦1,400-1,700年の小氷期に注目し,アジアモンスーンの特徴を調査した.数値気候モデルによるシミュレーション結果やプロキシデータは,小氷期と比べて,中世温暖期に夏季アジアモンスーンが強まっていたことを示している.複数の気候モデルによって実施された実験結果を検証することにより,中世温暖期と小氷期の間で,軌道要素の長期変動の結果として北半球の太陽入射量の季節配分が変わっていたために,夏季アジアモンスーンの季節進行の様相が異なっていた可能性を見出した.軌道要素を含む歴史的な境界条件をもとに実施された10種類の気候モデル実験は,小氷期と比較して,一貫して中世温暖期の夏季アジアモンスーンが晩夏に強まり,初夏に弱まっていたことを示している.小氷期と比較して,中世温暖期の北半球の入射量は,冬から6月までは弱く,6月以降になると強まる.これにより,季節の進行に伴うユーラシア大陸上の大気が暖まる時期が変わり,海陸間の温度コントラスト,大気循環,降水量の分布も変わる.このように季節によって異なるモンスーンの応答は,複数の気候モデルの間で一貫して確認されるとともに,軌道要素の違いのみを考慮した感度実験にも確認される.本研究の結果は,緩やかな地球軌道要素の変動が,百年規模でアジアモンスーンの季節進行を変えうることを示している.