スラブ変成作用の地震波によるイメージングと稍深発スラブ内地震の発生原因
- Keywords:
- Internal slab structure, slab metamorphism, dehydration-related embrittlement, intermediate-depth earthquake, intraslab earthquake, earthquake generation mechanism, subduction zone
稍深発地震が発生する深さでは,法線応力が非常に大きくなり,そのため断層強度も極めて大きいはずである.地震が発生するためには,それを超えるせん断応力が必要であるが,実際にそのように大きなせん断応力が働いているとは考え難い.したがって,断層強度を低下させる何らかの特別なメカニズムが働いているはずである.そのメカニズムとして挙げられている有力な説は,1) 脱水脆性化,2) クリープの熱的不安定の2つである.一方,近年の地震観測網の高密度化により,沈み込むスラブの内部構造をもイメージングすることが可能となってきた.それは,稍深発地震の発生メカ二ズムについて,決定的な観測的証拠を提示しつつある.本論文では,スラブ内の地震波速度構造と稍深発地震活動に関する最近の研究についてレビューし,稍深発地震の発生原因について考察した.
稍深発地震は,深さ約40–180 kmの範囲で二重地震面を形成する.それはスラブ内で含水鉱物の存在可能範囲,とりわけ脱水反応境界付近に集中して地震が発生するからである.さらに,最近の研究で,二重地震面の上面の地震が,スラブ変成作用と密接に関係して特徴的な空間分布を示すことが明らかになった.冷たいスラブでは,沈み込みに伴う地殻のP-T pathが,H2Oを多く吐き出し,総体積変化が正となる相境界を通過する.このことは,相境界付近で活発な地震活動を生じさせると期待される.期待通り,スラブ表面の80–90 kmの等深線に沿った帯状の地震活動の集中(上面地震帯)が,冷たいスラブの代表である東日本下の太平洋スラブの地殻内に見出された.上面地震帯の位置は地殻内の相境界付近と推定され,脱水反応により吐き出されたH2Oで間隙圧が上昇し,断層強度が低下したことにより形成されたと推定される.実際,スラブ地殻の地震波速度は,上面地震帯の深さまで低速度であり,それ以深で高速度である.これは,脱水反応の相境界がこの位置にあることを示す観測的証拠である.同様のスラブ地殻の地震波低速度層とその下限の深さまで分布する地震活動は,他のいくつかの沈み込み帯でも見出された.地震波トモグラフィは,東北日本と南米チリ沈み込み帯で,二重地震面の下面に沿って地震波低速度層が分布することも明らかにした.ただし,蛇紋岩化したマントルから予測される値とは異なり,S波は低速度でない(つまり,Vp/Vs比は大きくない).この特異な構造をつくる原因は良く分かっていないが,地震波速度異方性と孔隙のアスペクト比が原因であるかも知れない.いずれにしても,下面に沿って顕著なP波低速度層が分布することは,含水鉱物/H2Oがそこに存在していることを示唆する.これらの観測事実は,脱水脆性化説を強く支持する.ただし,H2Oで局所的に上昇した間隙圧は断層のせん断破壊強度を低下させることで破壊の開始に貢献し,一方で断層破壊の進展には熱的不安定が主として貢献するという,言わば2つの複合したメカニズムが原因である可能性も残されている.いずれにしても,稍深発地震の発生にH2Oが重要な役割を果たしていることは,ほぼ間違いないように思える.