日本語要旨

過去の地震による火山下のマグマ溜まりおよびマグマ経路への静弾性的影響: 富士山の場合

われわれは、過去に発生した大きな地震による、富士山下での静的弾性変形を計算した。富士山で最も爆発的なプリニー式噴火であったとされる1707年の宝永噴火は、南海トラフ沿いで発生した同年の宝永地震(Mw8.7)の49日後に発生した。先行研究において、宝永地震が富士山下深部の玄武岩質マグマ溜まりの圧縮およびマグマ経路の一部におけるアンクランプを引き起こし、浅部マグマ溜まりでのマグマ混合を通じてプリニー式宝永噴火を誘発した、というメカニズムが提唱されている。本研究では、富士山下のマグマ溜まり周辺での体積歪み、さらにマグマ経路上での法線応力変化の点で、1707年の宝永地震が特殊なケースであったことを示す。

一方、日本海溝沿いで発生した2011年の東北沖地震は、富士山下のマグマ溜まりを膨張させた。火山噴火の誘発に関する別のメカニズムとして、マグマ溜まりの膨張に起因する脱ガスから、マグマの上昇が生じ、さらなる減圧が引き起こされ、火山噴火に至る、というポジティブフィードバックシステムが提案されている。実際に、2011年の東北沖地震後の1ヶ月間程度、富士山周辺の地震活動は、M6級の最大地震に続く余震群を統計的に除外しても、顕著に増加していた。しかし、東北沖地震による体積歪み変化の量が非常に小さかった(< 1µ strain)ため、本格的なマグマ上昇を引き起こすには至らなかったと考えられる。

われわれは、過去に周辺で発生した他の大きな地震も対象としてモデル計算を行い、多くの場合において、富士山下ではマグマ溜まりの圧縮およびマグマ経路のクランプが生じていた、という結果を得た。このような変形によって火山噴火が誘発されるメカニズムは、現在までに提案されていない。富士山は、大きな地震の発生源との相対的な位置関係により、静的弾性変形の影響を受けにくい状況下にあると考えられる。