日本語要旨

地球型惑星や衛星の中心核固化様式とダイナモ活動への示唆:鉄の雪が降り硫化鉄が浮き上がる内核成長

近年の惑星探査や数値計算によって,地球型惑星や衛星の深部構造の理解は飛躍的に向上した.本稿ではこれらの天体の,鉄(Fe)を主体とする中心核の組成や状態に関する理解をレビューするとともに,水星,月,火星,そして木星衛星ガニメデの磁場の進化に関する最新の知見をまとめる.この中では,地球中心核における“鉄の降雪”や硫化鉄(FeS)の結晶浮上といった,古典的な描像とは異なる結晶化プロセスが示され,中心核の進化に重要な役割を果たすものと認識されている.核の組成がFeとFeSの共融組成よりもFeに富む場合には,地球中心核よりも低い圧力領域では“鉄の降雪”が発生し,核の中心ではなく核マントル境界(CMB)付近でFeが固化し始める.一方で核の組成がFeとFeSの共融組成よりも硫黄(S)に富む場合には,FeSの結晶化が発生する.この結晶化が核の中心付近で生じるかCMB付近で生じるかは,核が持つ温度構造と圧力に依存する.こうした多様な結晶化プロセスは,核内部のダイナミクスや磁場の生成に様々な影響を及ぼす.月では,古月磁気データにもとづいて42.5億年~35億年前に核ダイナモを起源とする強い磁場が存在し,その後に急速に弱まったことが示唆されている.また,アポロ地震計データの再解釈によって,月の核ダイナモは従来の予想よりも長期間存続し,内核も存在していたことが示唆されている.水星とガニメデのダイナモと磁場発生は,(核の組成がFeとFeSの共融組成よりもFeに富むならば)比較的最近に生じた中心核での“鉄の降雪”によって引き起こされた可能性がある.水星の初期のダイナモ活動は,これらとは異なる要因で生じたと推定される.メッセンジャー探査機のデータによれば,水星の中心核がケイ素を含む還元的な環境で形成し,核の結晶化がさらに複雑な過程で進んだことが示唆される.進化史の初期に強い磁場を持っていた火星は,固体Feの内核形成がまだ始まっていないようである.