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つくば市での大気放射能:福島第一原発事故後3年間の観測研究のまとめ

本報告は,福島第一原子力発電所(福島第一原発)事故によって生じた大気の放射能汚染に関する,気象研究所での観測を主とした研究成果のまとめである.

東京電力が運営する福島第一原発で,大規模かつ深刻な事故が2011年3月に発生した.その結果,福島第一原発周辺だけでなく,東日本と北太平洋西部の広範囲にわたり放射性物質による重大な環境汚染が引き起こされた.この事故は,気象研究所で継続している大気中放射性核種の長期観測記録にも大きな変動を印した.そこで,われわれは,事故後およそ3年間に茨城県つくば市(事故現場からおよそ170 km南西に位置する)で観測された福島第一原発事故による大気への影響についてまとめ,大気汚染の典型的な事例として,事故以前の状況と比較しここに報告する.

2011年3月における気象研究所での90Srおよび137Cs月間大気降下量は,それぞれ,約5 Bq/m2,約23 kBq/m2に達した.これらの放射性核種の降下量は,事故以前の期間での値に比べると,それぞれ,3~4桁,6~7桁高いものとなっている.しかし90Srによる汚染は,137Csの汚染と比較すると,影響ははるかに小さいものといえる.他方,大気中137Cs濃度は,2011年3月20~21日の期間,最高値として38 Bq/m3を記録した.その後,大気中137Cs濃度は2011年秋までは速やかに減少し,それ以降は減少が鈍くなった.福島第一原発事故以前の137Cs濃度水準は高くとも約1 μBq/m3であったが,事故の3年後,2014年での137Csの平均濃度水準は約12 μBq/m3で,事故前の水準には戻っていない.この原因は,大気中に放射性Csを供給する過程として,汚染した環境からの再浮遊(二次的な放出)があるためと考えられる.ここで示す事故以来3年間の大気データは,放射性Cs濃度とその降下量がどのような減少傾向を示したか,その時間変動を表し,こうした再浮遊過程について検討・考察するための重要な根拠ともなる.

これらに加えて,福島第一原発事故発生直後からのモニタリング即応活動の結果や,大気放射能汚染に対するモデリング,モデルを利用したデータ解析アプローチなど,関連した情報を付属資料で提供している.