日本語要旨

台湾におけるマスムーブメントの発生と雨量強度-降雨継続時間との関係

本研究では、台湾で降雨に起因して発生した263件のマスムーブメント(斜面崩壊・土石流、2006年~2012年)を分析した。これらのうち156件が斜面崩壊、91件が土石流、16件が斜面崩壊および土石流の事例である。各事例について地上雨量計のデータを分析し、マスムーブメントの発生と雨量強度-降雨継続時間との関係(発生基準雨量)および先行降雨を解析した。その結果、マスムーブメントの発生基準雨量として I = 18.10(±2.67)×D−0.17(±0.04) が得られた。ここでIは一連の降雨の平均雨量強度(mm/h)、Dは一連の降雨開始から斜面崩壊が発生するまでの時間(h)である。斜面崩壊と土石流では、発生基準雨量に有意な差が見られ、短時間の降雨イベントにおいては土石流はより強い平均雨量強度で発生していた。一方、長時間の降雨イベントでは、斜面崩壊と土石流の発生基準雨量は同様であった。世界各地での研究と比較するために、発生基準雨量を年間降水量(MAP)で基準化すると、IMAP = 0.0060(±0.0009)×D−0.17(±0.04) が得られた。ここでIMAPは、MAP =3000 mm(台湾の山岳地帯における最小値)で基準化した平均雨量強度である。台湾の基準化した発生基準雨量は、他の地域よりも低く、台湾ではマスムーブメントが発生しやすいことを示している。また、多くのマスムーブメントの発生時刻は降雨のピーク時と対応していたが、一部のイベントは降雨のピーク時よりもかなり前か後に発生していた。本研究の結果は斜面崩壊の発生には雨量強度と先行降雨の両方が重要であり、土石流の発生には雨量強度がより強く関連することを示唆している。