日本語要旨

三陸海岸小谷鳥における最近4000年間の津波堆積物と歴史津波との対比

過去数百年間に東北地方太平洋岸(三陸海岸)を襲った津波に関しては,記録や観測結果が蓄積されてきた。それにも関わらず,2011年東北地方太平洋沖地震により発生した大津波のリスク評価は十分ではなかった。その理由として、三陸海岸沿いの歴史・古津波堆積物に関する情報の不足が挙げられる。そこで我々は、三陸海岸の小谷鳥に分布する湿地においてトレンチ掘削調査を行い、津波堆積物の候補であるイベント堆積物の認定を行った。次いで、堆積物の特徴(粒子の円磨度、色、密度、強熱減量)を明らかにし、放射性炭素年代測定とテフラ分析によりそれら堆積物の年代を推定した。津波堆積物の認定には、堆積構造、堆積物の起源、堆積環境、過去の海岸線位置、土地所有者への聞き取り、などの情報を用いて、総合的に津波堆積物を認定した。その結果、本研究では、最近4000年間で11層(E1~E11)の津波堆積物を認定した。それらのうち、新しい4層(E1~E4)は、それぞれ、2011年東北地方太平洋沖地震津波、1896年明治三陸津波、1611年慶長三陸津波、869年貞観津波に対比される。また、我々は年代情報と津波堆積物の数に基づき、調査地点における1896年明治三陸津波以上の規模を持つ津波が平均して290~390年間隔で襲来していると推定した。しかし、E1~E4堆積物と歴史津波との対比結果からそれらの発生間隔のばらつきは大きく、このことは津波発生要因の多様性もしくは日本海溝付近における異なるタイプの大地震の組み合わせを示唆している。