日本語要旨

含水マントル溶融におけるF、Cl分配の対照的な挙動:沈み込み帯マグマのCl/F比への影響

沈み込み帯マグマの生成条件(1.2~2.5 GPa,1,180℃~1,430℃)において,含水マントル溶融のF,Cl分配を実験的に決定したので報告する.今回行った5つの実験では,レルゾライト質マントル構成鉱物(かんらん石,斜方輝石(opx),単斜輝石(cpx),柘榴石),角閃石,含水玄武岩メルト(含水量0.2~5.9wt%)の間でF,Clの分配係数を決定した.圧力一定では,1,310℃から1,180℃への温度低下および0.2wt%から5.9wt%へのメルト含水量増加の複合した効果に対し, は対照的な応答を示した.すなわち, が0.123±0.004から0.021±0.014に減少するのに対し, は0.0021±0.0031から0.07±0.01に増加した.単斜輝石の場合も同様の結果が得られた.すなわち, が0.153±0.004から0.083±0.004に減少するのに対し, は0.009±0.0005から0.015±0.0008に増加する.実験的に決定したF,Clの分配係数を,スラブ由来流体による交代作用を受けたレルゾライト質マントルの溶融モデルに適用した.モデルでは,スラブ由来流体の組成を一定に保ったまま,マントルへの付加量を変化させた.その結果,流体の付加量が増加すれば,(水を加えた効果により)マントルの溶融度が上昇し,同時にマントルウェッジへのF,Clの付加が増大した.水の増加とともにF,Clの分配係数が変化するため,モデルメルトのF,Cl含有量の変化は,流体からのF,Clの付加だけでなく,含水マントル溶融時のF,Cl分別の変化によっても支配された.以上のことを総合すれば,本モデルでは,流体付加量の増加とともにメルトのCl/F比が大きくなると予測される.したがって,マントルウェッジに付加された流体量の変化が,沈み込み帯火山岩のメルト包有物で観測されるCl/F比の多様性に寄与している可能性がある.