ロシアと日本の自然風景に対する印象評価比較:文化と環境要因に着目して
- Keywords:
- Visual landscape classification, Aesthetic evaluation, Attractive landscape, Exotic landscape, Traditional landscape appreciation, Influence of natural environment
日本の自然風景観は19世紀のロシア文学の影響を強く受けており,国境を接しよく似た自然環境を有する両国の自然観には多くの共通点を見出すことができる.しかし,政治・経済・歴史・文化においてこれまで両国間の隔たりは大きく,ロシアと日本の自然風景観を比較した研究は行われてこなかった.本研究では,日本人とロシア人の大学生を対象として,両国の自然風景に対する印象評価を比較し,文化的隔たりや地理的隔たりの影響について考察した.調査はロシアの大学生(モスクワ大学,イルクーツク大学,カムチャッカ大学)と日本の大学生(北海道大学,千葉大学,宮崎大学)を対象に行った.まず,ロシアと日本の自然風景を代表する70枚の写真を類似度で分類してもらい,次に各写真の好ましさと異国情緒について5段階で評価をしてもらった.
その結果,回答者の文化的背景や居住地の周辺環境が自然風景の好ましさの評価に影響していたことが明らかとなった.ロシア人学生の得点が日本人学生より高い傾向が見られたが,両者には高い相関が見られ,自然風景の好ましさには普遍性があると推察された.両国の学生が最も好ましいと評価した風景は滝や山,湖であり,最も好ましくないと評価した風景は水辺のない平原であった.一方,海岸や森林,湿原の風景については,両国の学生で比較的評価に違いが見られた.異国情緒の評価については,両国の学生間で全く相関が見られず,ロシア人学生は比較的異国情緒を感じる風景を好ましいと評価する傾向が見られたが,日本人学生ではそのような傾向は見られなかった.すべての回答者が,自国を代表する自然風景について,異国情緒はなくても非常に好ましいと評価していた.
自然風景の評価には水辺の存在が大きく関わっており,ロシア人学生(特にモスクワ大学)には地形も重要であった.一方,国土面積の広さを反映してか,日本国内の評価は比較的一致していたが,ロシア国内の評価は居住地域により差が見られた.