日本語要旨

AMT法による比抵抗構造から推察される,台湾北部・大屯火山群の熱水系

大屯火山群は台湾北部に位置する20以上の火山の集合体である.歴史時代の噴火記録が無いため,本火山群の活動は終了したものと考えられてきたが,近年になって,高いマグマの寄与を持つ噴気ガスや若い年代値を持つ噴出物(約6ka)の発見等から,将来的な噴火活動を引き起こすマグマの存在が示唆された.これらを受け,将来的な噴火活動の可能性・様式・規模を明らかにするための観測が現在行われている.現在の本火山群の活動を特徴付けるのは,七星山(Chishinshan)を中心に,小油坑(Siao-you-keng)・馬槽(Matsao)・大油坑(Da-you-keng)に代表される広範囲な噴気・温泉活動であり,熱水流動を示唆する微小地震分布・圧力源分布が地球物理学的観測から,噴気・温泉の生成機構が地球化学的調査から明らかになっている.本研究では,流体の存在や変質に敏感な物理量である比抵抗を用いる.Audio-Magnetotelluric Method(AMT法)により浅部の比抵抗構造を明らかにし,既存の研究結果と統合することで,以下に示すような本火山群の熱水系モデルを提案した.七星山直下では,深部から地熱流体の供給があり,浅部に蒸気卓越領域が形成される.蒸気は上部の不透水層によって保持されるが,一部は地表に到達して小油坑噴気域を形成する.また蒸気の一部は表層付近の地下水系と混合した後地形に沿って流下し,馬槽温泉を形成する.一方,大油坑噴気域の噴気ガスは,南部の擎天崗(Cing-tian-gang)直下の蒸気卓越領域から供給される.これらから,本調査地域では,約6kaに発生した水蒸気爆発が現在もなお起こる可能性が示唆された.また,上記の熱水系モデルは,本火山群の地殻変動や火山ガス成分・微小地震活動・重力値の時間変動を理解する上で強い拘束条件を与えられると期待される.