日本語要旨

爆弾低気圧に伴う対流圏界面逆転層の形成に関する数値実験:重力波の果たしうる役割

対流圏界面逆転層(TIL)は対流圏界面のすぐ上に見られる安定度の高い持続的な層である。いくつかのTIL形成メカニズムが提唱されているが、現実的な条件下、特に重力波のような時空間的にスケールの小さい過程の寄与を考慮した場合のTILの時間発展についてはまだよく理解されていない。こうした小スケールの過程による効果についての理解を得るため、非静力学領域大気モデルを用いて、中緯度での爆弾低気圧の発達に関する数値実験を行った。モデルの中で得られたTILは、負の渦度領域でTILがより強いという点において、これまでの観測と整合的であるが、この関係は低気圧の発達期・成熟期にのみ明瞭であった。これは低気圧の発達がTILの形成に大きな役割を果たしていることを示唆している。

TILに対する重力波の効果について確認するため、対流圏界面における鉛直収束∂w/∂zについて解析した。TIL内の浮力振動数の最大値(N2max)のヒストグラムを見ると、鉛直収束の大きい領域ではN2maxが大きかった。同時に、∂2w/∂z2が大きい領域でもN2maxが大きかったが、これは鉛直下向きの位相速度を持つ重力波もまたTILの力学的形成に重要な役割を果たしていることを示唆する。この傾向は圏界面高度での渦度が負の領域でより明瞭であった。

低気圧や局所ジェットに伴う重力波の活動が低気圧の発達期・成熟期に活発化することを考慮すると、総観規模擾乱に伴う重力波による鉛直収束は、TIL強度と対流圏界面付近の局所的な渦度の間に見られる負の相関の形成において、重要な過程である可能性がある。