日本語要旨

2011年と2012年の台風シーズンにおける台風による海面冷却:観測による実証と海面冷却が台風シミュレーションに与える効果に関する数値的研究

北西太平洋海域に展開された3基のフロートによる日々の観測により、2011-2012年の台風シーズンにおいて8つの台風の海洋応答がとらえられた。本研究の目的は、観測結果により台風に対する海洋応答を明らかにするとともに、その台風予測への影響を大気波浪海洋結合モデルを用いて評価することである。観測された海洋応答は、台風中心に対するフロートの3つの相対位置、100km以内の台風近傍域、台風経路から100km外でかつ右側に離れた海域及び台風経路から100km外でかつ左側に離れた海域、で大きく異なっていた。日々の観測結果はまた、塩分のプロファイルが水温のプロファイルと台風通過前と後に、降水による成層の形成のために異なることを示していた一方、台風通過時はどちらも深く一様な混合層を形成していた。

台風による海水温低下が3℃を超えた事例である2011年台風Ma-onとMuifa、2012年の台風Prapiroonについて、この海水温低下が台風予報に与える影響を評価するため、非静力学大気波浪海洋結合モデルにより数値シミュレーションを実施した。すべての数値シミュレーションで、台風による海水温低下と中心気圧の上昇の再現は適切に再現された。Muifaの事例に対してのみ、海水温低下は台風経路のシミュレーションに与える影響は大きかった。台風中心から200kmまでの海面水温と潜熱の軸対称プロファイルの調査結果から、台風直下の海水温低下は24~47%の潜熱の減少をもたらすことが明らかとなった。また海洋結合による平均潜熱の減少量は、海水温低下が大きいほど大きくなった。こうした結果は、台風予報が改善するためには、台風域における海洋の現場観測頻度を増やし、海洋解析の精度を改善するとともに、海水温低下過程を含む大気海洋結合過程を一層理解する必要があることを示唆する。