日本語要旨

宇宙線生成核種を用いた阿武隈山地の侵食速度定量:尾根と谷の侵食速度の比較

侵食作用は化学風化を通じて大気中 CO2 濃度に影響を与えると考えられている. したがって侵食速度の定量的な評価は, 地球上の物質循環を議論する上で重要である. 近年, 宇宙線照射生成核種(10Be, 26Al)を用いた定量評価手法が世界的に注目されている. 地表の岩石が宇宙線の照射を受けると, 核破砕反応により, 岩石中に宇宙線照射生成核種が生成する. これらの核種の濃度は, 宇宙線の照射による生成と, 侵食による損失によって変化する. ここで核種の生成率は試料採取地点の標高と緯度に依存する. したがって核種濃度を測定することで侵食速度を求めることができる. これには主に二つの手法が存在するが, 一つ目の手法は, 露岩中の宇宙線照射生成核種濃度や, 核種の深度プロファイルにより山地の尾根部の侵食速度を求める手法である. 二つ目の手法は, 河川堆積物中の宇宙線照射生成核種を用いて集水域の平均的な侵食速度を求める手法である. しかしこれらの二つの手法を同じ地域に用いた研究例は極めて少ないのが現状である. そこで本研究は, 阿武隈山地東部においてこれらの二つの手法を適用し, 尾根部と谷部の侵食速度を比較した. 深度プロファイルによって求まった尾根部の侵食速度は67 – 85 mm/kyrであり, 一方, 河川堆積物を用いて求めた集水域スケールの侵食速度は114 – 180 mm/kyrであった. これらの侵食速度の差は, 阿武隈山地東部の起伏が過去数万年間増加してきていることを示唆している. 本研究で行った阿武隈山地東部の侵食速度の空間分布の定量的な評価により, 異なる侵食速度決定法の組み合わせは地形発達や侵食速度の制御要因についての議論をする上で有用であることが明らかとなった.