日本語要旨

2016年三重県南東沖地震(Mw 5.9)と南海トラフ巨大地震の準備過程

南海トラフでは100年から150年の周期でプレート境界型の巨大地震が発生することが知られている。前回の巨大地震(1944年東南海地震および1946年南海地震)から約70年が経過している事から、近い将来の巨大地震の発生が危惧されている。一方、1946年南海地震の後、余震を除くとマグニチュード(M)6クラス以上のプレート境界地震の発生は知られていない。2016年4月1日、1944年東南海地震の震源域で、三重県南東沖地震(Mw 5.9, MJMA 6.5)が発生した。本研究では、この地震のプレート境界巨大地震との関連を調べるため、詳細な地震波速度構造を用いた震源決定と、階層アスペリティモデルに基づく地震サイクルシミュレーションを行った。初めに、震源域を通る測線の構造探査に基づく2.5D速度構造を用い、本震および余震の震源決定を行った。震源域直上の海底に設置されたDONET観測記録を用いた震源決定の結果、この地震がプレート境界断層で発生したことが分かった。次に、巨大地震のサイクル中盤における中規模地震の発生を再現するため、地震サイクルシミュレーションを行った。ここでは、巨大地震を起こすアスペリティ内に、中規模地震を起こす小アスペリティを配置した、階層アスペリティモデルを用いた。巨大地震のサイクルシミュレーションにおいて、アスペリティ外側の非地震性すべりによって固着域は時間とともに縮小し、これが限界に達するとアスペリティが破壊、すなわち巨大地震となる。本研究のシミュレーションでは、この固着域の「はがれ」によって、中規模地震の震源である小アスペリティの応力蓄積が加速し、その結果、巨大地震サイクル中盤での中規模地震が再現された。さらに、中規模地震のアフタースリップも再現され、これは2016年三重県南東沖地震後のプレート境界スロースリップや浅部超低周波地震の観測とも調和的である。これらの結果から、2016年三重県南東沖地震は南海トラフにおけるプレート境界固着域の「はがれ」によって発生したことが示唆される。巨大地震サイクルの中盤においてプレート境界における中規模地震が発生したことは、次の巨大地震の準備プロセスが進行していることを示している。