条件付確率法による広域分布型降雨流出モデルのパラメータ地域統合化
- Keywords:
- 分布型モデル、パラメータ地域統合化、条件付確率、土壌タイプ、洪水、斜面流出
気候変動の影響が顕在化し、世界で大規模な洪水の頻度が増加している。洪水リスクを軽減するためには、洪水リスクの評価とリアルタイム予測が重要な役割を果たす。それを実現するためには、中小河川を含めて広域に展開できる分布型モデルの活用が不可欠である。ただし、中小河川では観測データが限られるため、使用するモデルは頑健なものであり、かつ水文特性に基づいて物理的に妥当なパラメータを設定することが大切である。
分布型モデルで、多数の独立した流域ごとにパラメータを最適化すると、パラメータ分布がパッチワーク的なものになる。そのため、土壌や地質といった水文特性の空間分布を適切に反映した地域統合化の手法が必要となる。しかし、従来の地域統合化手法やパラメータ分布の最適化手法は計算コストが高く、広域かつ高解像度の分布型モデルには適さないものが多い状況であった。
この課題に対処するため、本研究では条件付き確率に基づくパラメータ地域化手法を提案した。本手法の特徴は、パラメータ同定時に流域内で空間的に一様なパラメータセットを仮定して計算を実施することによりで、計算コストを大幅に削減できる点にある。得られたパラメータセットは事前に用意された土壌や地質マップに応じた空間分布を持つように決定される。これを実現するため、本研究はベイズの定理を導入し、件付き確率の方法を適用してパラメータの分布を推定した。
提案手法を、日本全域を対象とした空間解像度150 mの分布型降雨流出氾濫(RRI)モデルに適用した。その結果、全国711地点、全2,723の出水に対して、Nash-Sutcliffe指標(NSE)の中央値は0.87となった。これは、75地点、全525の出水を対象にしたパラメータ同定の結果(NSE=0.83)と比較しても同等、または向上しており、本モデルの妥当性が確認された。
本手法により得られた全国規模の高解像度モデルとそのパラメータ分布は、観測情報が限られた中小河川においても高い再現性を示し、モデルの頑健性を確認した。提案した地域統合化の手法は、単純かつ有効であることを確認した。本手法は任意の分布型降雨流出モデルに適用可能である。