藻類-動物の共生におけるエネルギー資源の効率的利用:アミノ酸の安定同位体比分析からの洞察
- Keywords:
- Nitrogen isotopic composition, Mixotrophy, Coral, Anemone, Zooxanthellae, Productivity, Trophic position, Endosymbiosis, Trophic transfer, Food web
地球上に棲む生物の多くは、異なる生物種間の「共生」により、エネルギー資源を効率的に利用できるようになった結果、過酷な環境へも進出できたと考えられている。このような共生は、地球の歴史の中で頻繁に起こり、現在でも様々な生態系で観察される。例えば、サンゴ礁は生産性が高く、生物多様性に富んだ生態系であり、その理由として、①独立栄養生物(藻類)と共生する従属栄養生物(動物)が多く見られること、②共生藻類の作り出した光合成産物(エネルギー資源)を動物宿主が効率的に利用していること,などが考えられている。
本研究では、アミノ酸の安定窒素同位体比(δ15N値)を指標として、藻類–動物間の共生における光合成産物の利用効率を定量的に評価した。イソギンチャク、造礁サンゴ、非造礁サンゴなどを独立栄養条件下で実験室にて長期飼育(2ヶ月以上)し、アミノ酸のδ15N値を分析した。その結果、光合成産物の利用効率は、共生性の動物宿主で平均56%であり、これは、非共生性の動物の一般的な利用効率(28%)に比べて約2倍高い。この結果は、「藻類–動物間の共生」が、一次生産者と一次捕食者という生態学的役割のみならず、藻類が作り出した光合成産物の利用効率を高めることで、生態系全体の生産性の向上や、それに伴う生物多様性の維持に寄与していることを示唆する。とくに、サンゴ礁のような高生産性かつ多様性に富んだ生態系の形成には、藻類–動物間の共生が果たす役割が重要であると考えられる。
さらに本研究の結果は、現代の生態系だけでなく、地球の生命の歴史を考える上でも重要な示唆を与える。過去の海洋において、真核藻類が複数回の「endosymbiosis:細胞内共生」により進化、発展し、それと同じようなタイミングで、海洋表層の生産性の上昇がみられる。これを説明する1つの要因として、藻類–動物間のエネルギー資源の効率的利用が、生態系の生産性を高め(バイオマスを増やし)またその生態系に棲む生物の多様性を維持する原動力となってきた可能性がある。今後は、様々な共生生物について同様の調査を行うことで、共生が持つ普遍的な生態学的意義、進化学的意義をより深く理解できると期待される。