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北西インドにおけるポストモンスーン期の農業系バイオマス燃焼がエアロゾル、雲、および放射に与える影響の解明

近年、北西インドにおけるポストモンスーン期の農業系バイオマス燃焼活動は、デリー首都圏を含む広範囲で深刻な大気質の悪化を引き起こしており、重要な社会環境問題として認識されている。これらのバイオマス燃焼活動は、大気質の観点から広く研究されてきたが、雲や放射場に与える影響を通じた気候システムへの影響については、十分に注目されてこなかった。本研究では、約20年間(2002年~2021年)にわたる可視赤外分光放射計(MODIS)や地球放射収支観測装置(CERES)による衛星観測データ、ならびにNASAの大気再解析データ(MERRA-2)および欧州中期予報センター再解析データ(ERA5)を用いて、この地域における火災、気象パラメータ、エアロゾル、雲、放射についての解析を行い、ポストモンスーン期の農業系バイオマス燃焼がこれらに与える影響を調査した。その結果、過去20年間で北西インドにおける農業系バイオマス燃焼の強度が顕著に増加し、これらの燃焼活動は光吸収性エアロゾルおよびエアロゾル全体の濃度を大幅に増加させ、さらに雲の特性に影響を与え、放射収支に変化をもたらすことが確認された。特に、燃焼活動の強化は雲粒子の粒径を増大させ、雲の光学厚の減少を引き起こしており、強い燃焼期間中には雲粒子の衝突・併合プロセスが強化されていることが示唆される。また、燃焼活動の強化により、地表および大気上端においては冷却効果が増加し、大気中では加熱効果を引き起こすことが明らかとなった。これらの知見は、農業系バイオマス燃焼活動がこの地域の気候システムや水循環に与える潜在的な影響を示しており、今後さらに詳細な研究が必要である。