日本語要旨

簡単な生物地球化学過程を含めた北太平洋域高解像度海洋アンサンブル将来予測データセットの開発

本研究では、領域海洋将来予測データセット北太平洋域10km版(FORP-NP10)の新しいバージョン(version 4)を開発した。これは、高解像度海洋モデルシステムを用いた1960年から2100年までをカバーする過去再現および複数シナリオ将来予測の海洋アンサンブルシミュレーションによって作成されたもので、海面外力として第5次結合モデル相互比較プロジェクト(CMIP5)の大気データを用いている。本バージョンの主な特徴は、新たに簡単な生物地球化学過程を導入した上で、4つの海面外力ケースおよび2つの将来予測シナリオ(代表的濃度経路RCP2.6およびRCP8.5)の複数シミュレーションを、中規模渦を解像する水平解像度(約10km)のモデルで実施したことである。出力された結果(本データセット)は、北太平洋域および日本周辺海域における黒潮、黒潮続流、混合層深度分布などの主要な海洋物理構造とともに、海面CO2フラックス、pH、亜表層の酸素、表層の栄養塩やクロロフィルなどの主要な生物地球化学変量の基本分布等を良好に再現していた。また、これらの再現について各種観測データや低解像度モデルの結果と比較することにより、各特性のバイアス傾向・構造を評価した。さらに、IPCC報告書等で示されている21世紀における海洋表層の温暖化、酸性化、貧酸素化、栄養塩・生物生産の変化について、本アンサンブル予測データセットを用いた日本周辺海域での評価を行い、それら報告書等による全球的な解析と整合的な予測結果を得るとともに、解析対象海域内における将来変化量・傾向の細かな違いなども明らかになった。