日本語要旨

インドシナ半島広域に分布するオーストラリア・アジアテクタイトイベント起源イジェクタ層:東南アジアにおけるMIS 20/19期の巨大隕石衝突

インドシナ半島の第四系堆積地質は、表層堆積物の層序対比や起源の解釈において多くの課題を抱えていた。近年、およそ79万年前に東南アジアで発生した巨大隕石衝突(オーストラリア・アジアテクタイトイベント)により飛散した堆積物(イジェクタ層)がタイ・ラオスの表層堆積物中に存在していることが報告された。本研究では、インドシナ半島および南中国の5か国にわたる140以上の地点で表層堆積物の野外調査を行い、この天体衝突イベント起源のイジェクタ層がインドシナ半島広域に分布していることを明らかにした。さらにタイ東北部の代表的な地点においてX線コンピュータ断層撮影(CTスキャン)、磁化率測定、環境ルミネッセンス分析、粒度分析を行い詳細な層序区分を行った。調査の結果、イジェクタ層は大きく3つの層序ユニット(下位からユニット1~3)に区分された。ユニット1は各地域の基盤岩の破片を含む淘汰の悪い砂層である。ユニット2は主に石英岩と砂岩の礫からなる礫層で、上部にテクタイト(衝突により溶融した岩石が固化したガラス粒子)を含んでいた。基盤岩とユニット1の境界およびユニット2とユニット3の境界はしばしば顕著に波打っており、その波形などからユニット1および2は衝突によって生じたベースサージ(衝突起源風及び流動化イジェクタ)によって堆積した可能性が考えられる。ユニット2の上部に含まれているテクタイトには礫を覆うような形状をしているものがあり、堆積時にはまだ固化しておらず、ユニット2最上部を構成する礫と同時に堆積したものと考えられる。ユニット3は細礫をまばらに含む砂層でありしばしば上方細粒化を示し、細粒イジェクタが降下した堆積物であると考えられる。ユニット3の上部は耕作やシロアリにより生物擾乱を受けている。本研究の結果は未だ特定されていないこの衝突イベントのクレーターの探索に寄与し、また隕石衝突による堆積学的痕跡の知見拡大にも貢献するものと期待される。