日本語要旨

沈まずに長期漂流したミリメートルサイズの軽石:福徳岡ノ場海底火山2021年噴火の例

軽石の生成と海面での長期浮遊性の関係の理解は、噴火ダイナミクス・物質循環・生物学的および環境学的影響評価・海洋での火山災害の観点から重要になってきている。福徳岡ノ場海底火山2021年噴火では、軽石の集団が海面を漂流する軽石ラフトが発生した。噴火から約2ヶ月後に奄美大島と沖縄本島に到達した軽石ラフトは、いくつかの湾や港で海面を覆い、ラフトの軽石の特徴を研究する貴重な機会となった。粒度分析から、軽石ラフトには2~4 ミリメートルをピークとする数ミリメートルサイズの粒子が特徴的に含まれていたことが判明した。この観察事実は、以下の重要な疑問を提起した。過去の研究で示された浮遊時間を越える、2ヶ月以上の間、ミリメートルサイズの軽石粒子が、なぜ浮遊できたのか?この疑問を解くために、ミリからセンチメートルサイズの軽石粒子の空隙率測定技術を確立し、福徳岡ノ場2021年噴火の浮遊軽石と少量採集された沈降軽石の全空隙率・連結空隙率・孤立空隙率データを得た。過去の海底噴火軽石の研究で示されたように、浮遊軽石の大半は孤立空隙を多く含み(30 体積%以上)、ミリメートルサイズであっても沈まない軽石と判明した。骨格密度(軽石内の固相と孤立空隙を合わせた部分の密度)が軽石の浮遊性(沈まない軽石、または沈みえる軽石)を判定するための有用な尺度であることを本研究は強調する。粒径が小さくなるにつれて、浮遊軽石粒子が結晶を失っていることから、浮遊軽石の粒径はその岩石学的特性(結晶量や結晶サイズ)にも影響を受けることが判明した。また陸上噴火由来の軽石や減圧発泡実験で得られた軽石との比較を行った結果、福徳岡ノ場2021年噴火の軽石は海水中での急冷によりマグマ破砕後の膨張が抑制され、孤立空隙を豊富に含んだこと、低〜中程度(17 体積%以下)のマグマ中の結晶量がミリメートルサイズの沈まない軽石を豊富に生成する好条件をもたらしたことが示唆された。