日本語要旨

深海熱水域における電気活性微生物群集の電気化学的探査

深海熱水域の海底下で鉱体電池(ジオバッテリー)が形成され、海底面で放電現象が起きているという事実は、その環境中に電気活性微生物生態系が存在することを期待させる。海底の電場分布や岩石の電気伝導率などの電気化学的特性は、自然環境における電気活性微生物群集の探索に有用な指標となり得る。我々は、深海熱水域において遠隔操作型無人探査機(ROV)を用いて、自然電位(self-potential)法による電場測定を実施し、同時に海底から複数の岩石サンプルを採取した。強い電場を有するいくつかの海底が検出され、それらは熱水噴出孔近傍領域のみならず、熱水噴出孔から離れた領域も含まれていた。採取した岩石サンプルを実験室に持ち帰り、電気伝導率、鉱物組成、元素組成、微生物群集組成などの分析を行った。岩石サンプルの電気伝導率は、その岩石に含まれる銅および鉄の硫化鉱物の存在率と相関していた。特に、黄銅鉱(CuFeS2)の酸化の過程で岩石表面に生ずる銅藍(CuS)の存在が、岩石の電気伝導率に大きく寄与することが示唆された。岩石サンプルの表層から抽出されたDNAを用いて、スモールサブユニット(SSU)rRNA遺伝子アンプリコン配列に基づく微生物群集組成の解析が行われ、岩石サンプルの環境特性との関連性が分析された。その結果、Geobacteraceae(ジオバクテリア科)やThiomicrorhabdus(チオミクロラブダス属)などの電気活性微生物と関連が深いいくつかの細菌グループの存在量が、岩石サンプルの電気的特性によって影響を受けることが示唆された。今回の結果は、海底の電気化学的特性と電気活性微生物群集の存在率との関連性を調査した最初の例であり、フィールド規模での電気化学調査が電気活性微生物生態系を探索するための強力なツールとなる可能性を示すものである。