日本語要旨

海山沈み込みに伴って形成されたメランジュ剪断帯における変形機構と流体の状態

海山沈み込みに起因した不均質な岩石の分布と流体は、スロー地震の発生に関与していると考えられている。しかし、海山沈み込みに関連した変形機構や流体の状態は良く分かっていない。奄美大島に分布する秩父付加コンプレックスには、緑色片岩亜相の変成条件下で変形した泥岩優勢メランジュと玄武岩-石灰岩メランジュが分布している。泥岩優勢メランジュは、イライト質マトリックスに砂岩、珪質泥岩、玄武岩レンズを含むことにより特徴づけられる。玄武岩-石灰岩メランジュは、海山麓での玄武岩と石灰岩の混在に由来しており、緑泥石質マトリックスにミクライト質石灰岩、玄武岩レンズを含むことにより特徴づけられる。玄武岩-石灰岩メランジュは泥岩優勢メランジュの上に横たわっており、これはおそらく海山から海溝充填陸源性堆積物への海底地すべりを反映している。両方のメランジュに見られる非対称なS-C構造は、南東への逆断層運動を反映しており、沈み込みプレート境界に沿った剪断と調和的である。泥岩優勢メランジュにおける石英充填剪断脈と引張脈は、静岩圧に近い流体圧と低差応力下での脆性破壊を示している。微細構造観察により、泥岩優勢メランジュは石英の転位クリープと石英の圧力溶解とイライトの摩擦すべりが組み合わさりながら変形した一方で、玄武岩-石灰岩メランジュは緑泥石の摩擦すべりと粗粒方解石の転位クリープに加え、細粒方解石の圧力溶解と拡散クリープにより変形した可能性があることが明らかになった。海山沈み込みに伴って形成されたメランジュ剪断帯は、高流体圧下での脆性破壊を伴う沈み込みプレート境界に沿った剪断時の変形機構、流体圧、応力状態の時間的変化を記録しており、沈み込む海山近傍での微動の発生に関係している可能性がある。