インド洋熱帯域北東部における深海生底生有孔虫の変遷とmid-Brunhes dissolution期開始期の気候変化との関係
- Keywords:
- Deep-sea biota, Sediment geochemistry, Ballasting effect, Wind-driven mixing, Indian summer monsoon, InterTropical Convergence Zone
インド洋熱帯域北東部における第四紀後期の酸素同位体ステージ(MIS)17-12(約670–440 ka)の深海生底生有孔虫の群集変遷を検討した。MIS17-12は、さまざまな古気候・古海洋イベントの長期変遷があるmid-Brunhes dissolution期(約533-191 ka)と重複しており、海洋表層のみならず深海環境の変動にも関心が持たれている。本研究では、2本のコアODP Site 758(水深2925 m)とGPC03(水深3650 m)において、(a) 底生有孔虫化石群集、 (b)主要元素組成にもとづく堆積物中の陸源砕屑物と生物源炭酸塩の相対的寄与を検討した。さらに、(c) インド夏季モンスーン指標との比較から、深海生底生有孔虫群集の時系列変遷とmid-Brunhes dissolution期開始期の古気候変化との関係を考察した。
対象コアの年代モデルは、底生有孔虫の酸素同位体比変動パターンを全球的な氷期・間氷期標準曲線(LR04)と対比することで構築した。解析の結果、(a) 2地点の底生有孔虫群集の深度勾配がMIS 15/14で大きくなったこと、および、 (b) MIS 15からMIS 14-13にかけて陸源砕屑物の寄与が大きくなり、生物生産は低下していたことが明らかとなった。(c) 同じタイミングで、湧昇に関係する浮遊性有孔虫が減少していた(Chen and Farrell, 1991)ことから、底生有孔虫群集の深度勾配の強化と生物生産の低下が、インド夏季モンスーンの弱化に関連して起こっていたと推定される。mid-Brunhes dissolution期の古気候指標の長期的変化は、MIS 13ではほぼ北半球に限定されているものの、MIS 11に全球的に拡大したとされているが(Ao et al., 2020)、本研究の成果は、インド洋低緯度域の研究事例として、同時期の古気候・古海洋イベントを理解する有用な手がかりとなりうる。