高解像度津波計算から推定された琉球海溝南部における1771年明和津波の新たな波源モデル
- Keywords:
- 1771 Meiwa tsunami, Coral reef, Ryukyu Trench, Tsunami boulder, Tsunami earthquake, Tsunami modeling, Tsunami ray tracing analysis
1771年に先島諸島を襲った明和津波の最大遡上高は22 mを超え,約1.2万人の犠牲者を出した.この津波による浸水の有無などの被害実態は歴史資料によく記録されており,これをもとに,様々な波源モデルが提案されてきたが,いまだ議論が続いている.本研究では,10 mメッシュの 高解像度地形データを使用して津波計算を行い,最新の歴史記録データセットや地震学的知見をもとに,1771年明和津波の波源の再検討を行った.その結果,琉球海溝南部のプレート境界の浅く狭い領域(断層深さ=5 km,断層幅=30 km)において,30 mという大きなすべり量を仮定する必要があり,このすべり量は従来の推定値よりもはるかに大きいことがわかった.この結果は,明和津波の再現のためには非常に大きな初期水位変化が必要であることを示唆するが,これにはプレート境界における断層破壊だけでなく,分岐断層による変形や海溝軸付近における未固結堆積物の変形,巨大海底地すべりなどが関与した可能性も考えられる.また,断層パラメータが遡上に及ぼす影響は,サンゴ礁の幅によって大きく異なることが示された.このサンゴ礁地形の津波に及ぼす特性が,断層幅が30 kmであることを強く制約している.さらに津波の波向き線解析の結果から,直径数 m以上の巨礫は海底地形の影響により津波が集中しやすい海岸に集中する傾向にあることがわかった.これは,1771年明和津波を含む過去の津波が,特定のサンゴ礁に繰り返し強い影響を与えた可能性があることを示唆している.先島諸島においては,本研究で示されるように津波被害を強く受けうるサンゴ礁とそうでないサンゴ礁を直接比較することが可能であり,本研究の成果は巨大津波がサンゴ礁に与える影響を解明するうえでも有用であると考えられる.