日本語要旨

海洋堆積物に存在する真核生物環境DNAの全球分布

永久凍土や湖沼や海洋の堆積物には、過去に生息していた生物のDNAが残存していることが知られている。海洋堆積物中の真核生物由来の環境DNA(eDNA)を解析することは、過去の環境変動が生態系に及ぼしてきた影響を古環境学的・生態学的に解明するために有用であることが示唆されている。例えば、骨格を持たない分類群であっても、過去の生態系を理解することに繋がる場合が想定される。しかしながら、外洋や海底下深部の堆積物中に含まれる真核生物eDNAの全球的な時空間分布について、私たちの科学的知見は限られている。そこで本研究では、地質学的・海洋学的なセッティングが異なる40地点から採取された海底下678mまでの堆積物サンプル299個からeDNAを抽出し、真核生物eDNAの系統学的多様性を評価した。その結果、堆積年代が10万年より若い堆積物の80%以上から真核生物eDNA(18S rRNA遺伝子)のPCRによる増幅産物が確認された。さらに、それらの増幅成功率は、嫌気的な堆積物サンプルでは48%、好気的な堆積物サンプルでは18%であった。本結果は、堆積物に埋没した真核生物eDNAが嫌気的な条件下でより長期間保存されやすいことを示唆している。また、これらのPCR増幅した18S rRNA遺伝子断片の塩基配列の解析により、珪藻類、渦鞭毛藻類、円石藻類をはじめとした海洋プランクトンに由来するeDNAの存在が確認された。また、バルト海から採取された最終氷期の湖沼環境堆積物からは、淡水性の珪藻Aulacoseira属が検出された。これらの結果は、今後の海洋堆積物を用いたeDNA分析が、堆積当時の環境の理解や生態系の復元に寄与することを示している。