大規模アンサンブル気候変動予測情報を活用した地域イベントベースの確率洪水流量推定法
- Keywords:
- 大規模アンサンブル、閾値超過資料、洪水頻度解析、気候変動
近年急速に開発が進められている大規模アンサンブル気候変動予測データを広域の洪水予測モデルに入力することによって、あらゆる河川で、様々な再現期間に対応する洪水流量(以下、確率洪水流量)を推定できる可能性がある。しかし、気候データのアンサンブル数が増え、かつ広域洪水モデルの高解像度化が進む中で、効率的に確率洪水流量を求める手法の開発が不可欠である。例えば、気候変動予測データが数十年という長さで、計算負荷がそれほど大きくなければ、洪水モデルを連続的に実行して、推定された流量を通常の極値統計解析、すなわち年最大流量による確率評価を実施することにより、上記の目標を達成できる。一方、本研究で対象とするように全部で372年分の気候データがあり、用いる洪水モデルも150 mという分解能になると、長期連続計算は不可能となる。その代替策として対象地域に洪水をもたらす降雨を抽出して、選択された期間のみ洪水モデルを実行する方法、いわゆるイベントベースの解析を採用することが現実的な解決策となる。ただし、その方法で推定された洪水流量は年最大値とは限らないため、年最大流量を前提とした極値統計解析手法がそのまま適用できないという課題がある。一方、大きな洪水を見逃さないように降雨イベントが抽出できていれば、洪水流量が大きくなるイベントのみを使った極値統計解析手法を採用することによって、確率洪水流量を推定することができる。本研究は、その手法として期間最大資料(Block Maximum: BM)と閾値超過資料(Peak Over Threshold: POT)に着目し、各流域の年最大雨量を網羅的に抽出した場合と比較した。その結果、BMの場合は2~5年最大値を、POTの場合は上位10 %程度のピーク流量を用いることによって、再現期間が10年を超える規模の洪水流量を推定できることが分かった。両者の手法に精度上の大きな違いは無いものの、POTの方が必要となる計算量が小さく、また推定結果も安定する傾向が見られたため、本論文はPOTの手法を推奨する。