衛星・気象データセットの統融合による過去15年のシベリア域における日別湛水・植生マップの作成およびその環境学的応用
- Keywords:
- Continental-scale water and vegetation maps, Satellite data, Pan-Arctic region, Data fusion, Machine learning, Trend analysis, Phenological feature extraction
周北極域は近年、気候変動による陸域生態系や炭素・水循環の変質を経験してきた。森林火災を含む植生の変動や、サーモカルスト湿地の変動など、炭素・水循環に密接にかかわる陸面現象を広域でとらえるには、衛星データを活用したリモートセンシングが有効である。本研究では、衛星データや再解析データの統融合により、過去15年(2003~2017年)におよぶシベリア地域の日別湛水・植生マップを作成した。具体的には、ほぼ日別の観測データがある中分解能光学衛星データ(Moderate Resolution Imaging Spectroradiometer: MODIS)を中心に、雲被覆・太陽照度不足などによる当該データの欠測をマイクロ波データ・再解析データから補完することにより、500 m解像度の正規化植生指数(NDVI)と正規化水指数(NDWI)マップを作成した。補完には機械学習(ランダムフォレスト)によるピクセル別の非線形回帰を用いた。また副次的プロダクトとして、NDWIマップに対し最尤法による閾値を定め、湛水/非湛水マップも作成した。最終プロダクトはMODISシヌソイダル投影のタイルごとに管理され、分解能は500 m、観測頻度は日別となった。さらに、ユーザ利便性を考え、0.1°にリサンプリングした緯度経度投影プロダクトも作成した。オリジナルMODIS画像との比較による精度検証の結果、作成プロダクトの平均バイアスは小さく、RMSEは各指数マップについて0.1程度と推定された。さらに作成プロダクトの利用例として、過去15年の植生・湛水時系列トレンド分析と、2つの森林観測サイト上での植生季節(フェノロジー)変化の分析も行った。前者では、過去の研究事例とある程度符合するNDVIの減少地域や、湖沼・沿岸域周辺におけるNDWI減少のホットスポットが確認された。後者では、5つのフェノロジーパラメータの分析から、両サイトとも生育期間の拡大(春季の早期化・秋季の遅延化)の傾向がみられた。当該プロダクトは今後も、モデル研究や土地被覆マッピングなどにおける様々な利活用が期待される。