日本語要旨

大阪湾断層の浅部構造と第四紀後期の断層すべり速度

大阪湾は、中央構造線の北、淡路島の東に位置する地震活動が活発な地域であり、近畿三角帯と新潟-神戸歪集中帯の一部を構成する場所として知られる。大阪湾周辺は、複数の活断層の分布と、高い測地学的歪速度で特徴づけられ、関西地域の沿岸・都市圏において甚大な地震災害ポテンシャルを有する。本研究では、大阪湾内に分布する活断層の浅部構造と最新活動履歴を明らかにするために、ミニGIエアガンとブーマーを人工震源として用いた反射法地震探査を実施し、マルチビーム海底地形データの取得とともに、15本の測線上で高分解能の海底下構造データを取得した。取得された測線からは、大阪湾断層の浅部の上盤において約0.1-3.7 kmの幅を持つ非対称の背斜構造の前翼部と、西側に約2.6 kmの幅をもつ向斜構造が描きだされ、下盤は東側に約11 kmの幅を持つ向斜構造で特徴づけられた。断層の上盤と下盤の間に位置する向斜軸は浅部で75-89°であり、大阪湾断層の鉛直変位量(隆起量)が北部に行くほど増加することが観察された。しかし、上盤上に分布する堆積物の厚さは多様であり、湾内の潮汐流などの、テクトニクスとは異なるプロセスの影響も受けながら、growth strata(断層が変位している期間中に褶曲構造の周辺に堆積した地層)の形状を変化させていると考えられる。大阪湾断層の最新変形履歴は活褶曲により海底浅部まで及び、過去約1万1千年間の鉛直変位量は8-14m、過去約5千年間に限ると5-11mである。本研究で得られた構造データと、先行研究の掘削コアの年代値を総合することにより、大阪湾断層の更新世後期から完新世にかけた平均隆起速度は約1.0-1.7 m/千年であると推定される。これより、大阪湾断層の完新世の断層すべり速度は、近畿三角帯内の測地学的歪速度の5%以上を占めると見積もられる。近畿三角帯と神戸-新潟歪集中帯の内部の歪収支と地震災害ポテンシャルを評価する上で、構成する個々の活断層の完新世の変位速度を詳細に調べることは重要である。