日本語要旨

北海道の深部堆積環境の地下水におけるユニークな微生物の鉛直分布

本研究の目的は、地質学的に複雑な陸域における地下水中の微生物の鉛直分布を明らかにすることである。北海道幌延町の沿岸部で掘削された1200 mのボーリング孔から地下水サンプルを6試料採取した。対象地は塩化物イオン濃度と水の安定同位体比から3つの垂直的なゾーンに区分される。Upper Zone(UZ; 500 m以浅)は主に浸透した天水によって供給された淡水を含み、Connate Water Zone(CWZ; 790 m以深)は古海水を含み、Diffusion Zone(DZ; 500-790 m)はUZとCWZの間に位置する。これら3つのゾーンでは、原核生物の密度や群集構成の変動が観察された。原核生物の密度はUZからDZに向かって減少し、以深のCWZで再び増加した。DZの原核生物の密度はUZやCWZの密度よりも2桁低かった。CWZではそのバイオマスから海洋環境と同程度に高い原核生物ポテンシャルを維持していると考えられる。DZの地下水年代(8万~130万年)が示すように、CWZからの原核生物の上方への拡散は地質学的時間スケールで生じたと考えられる。DZは浸透した天水と深部からの古海水の拡散によって地球化学的特性が劇的に変化したゾーンであり、ユニークな地下環境が保存されている。この化学的に混合されたゾーンは、上下のゾーンからの拡散とその場での増殖によってもたらされる原核生物の密度と活性の増加を防ぐため、原核生物にとっての緩衝域と考えられ、地質学的な時間スケールで維持されていることが予想される。このゾーンの存在は島弧の深部地下環境における地下空間の利用に関して重要と考えられる。