日本語要旨

海氷変動下におけるウラルブロッキングと北大西洋振動が作用する北極温暖化–ユーラシア寒冷化(WACE)パターンの年々変動

近年、北極域の急速な温暖化と海氷の減少(特にバレンツ-カラ海: BKS)に伴い、冬季の強い寒波が中緯度、とりわけ中央ユーラシアで頻発している。このようなBKSと中央ユーラシアの異なる気温偏差パターンはWACE(Warm Arctic–Cold Eurasia)パターンとして知られている。過去のWACEパターンの形成におけるBKSでの海氷減少と大気の内部変動の影響については、中緯度の大気内部変動が大きいことから、現在も議論の対象である。この研究では、観測された海氷の状態を与えた大規模アンサンブル過去実験データ(d4PDF: database for Policy Decision making for Future climate change)を用いて、WACEパターンの年々変動における大気の内部変動の役割を調査した。アンサンブルメンバー間の比較により、大気の内部変動がWACEパターンの強さを決めていることを示唆する結果が得られた。BKSの気温は局地的な海氷減少の強い影響に加えて、ウラルブロッキングと正の北大西洋振動が引き起こす暖気移流によって上昇する。中央ユーラシアでの冬季気温の低下は、BKSでの海氷減少の遠隔的な影響ではなく、ウラルブロッキングによって強化された寒気の移流に起因している。この研究は、観測されたWACEパターンの年々変動を解明する上で、大気の内部変動が重要であることを明らかにした。