日本語要旨

新たな海水温データから示唆されたペルー沿岸水温と外洋水温の関連性

沿岸海洋の海況変動と外洋のそれとの関連性は、地域によって大きく異なる。沿岸域のモニタリング情報が外洋域についての何を明らかにし、現業機関等で行われている外洋域の予測情報が沿岸域の海況の将来変化にどれだけ適用できるかを、地域ごとに明らかにすることが重要である。南太平洋ペルー沖は、全球規模で最もインパクトの大きい海洋大気現象の一つであるエル・ニーニョ/ラ・ニーニャ現象の変動中心に近く、そのペルー沿岸海況への影響は極めて大きい。しかしながら、ペルー沿岸にはこれまで信頼できる連続観測データがあまりなかった。我々は2017年から2020年にかけて、ペルー沿岸に6つのロガーサイトからなる連続観測ネットワークを展開し、時間分解能の高い沿岸水温データセットを作成した。得られた新しいデータセットを歴史的な外洋の水温データと比較することにより、ペルー沿岸広域にわたる水温と外洋の水温の関連性を調べた。その結果、ペルー沿岸水温の月平均偏差は、外洋の海面水温の月平均偏差と強い相関があることが確認された。1つの例外を除き、相関係数は0.80から0.92の範囲で、p<0.01で有意であった。この結果より、ペルー沿岸のモニタリングから得られたデータが外洋の状態を示すのに利用できること、また、外洋のエル・ニーニョ予測を沿岸予測に応用可能であることが示された。

得られた時間高解像度水温データのスペクトル解析の結果、南緯5度以北の海域では、水温の変化周期が80日と120日にピークを持つことが明らかになった。この結果は、このような継続的な沿岸モニタリングが赤道ケルビン波・沿岸ケルビン波の季節内ダイナミクスの解明に貢献する可能性を示唆している。また、南緯5度以南に明確なピークがないことから、この期間、赤道波のエネルギーが季節内時間スケールでペルー沿岸の赤道域外までそのままの動態で運ばれていなかったことが考えられる。