高速拡大最下部地殻の形成過程:東太平洋海膨Hess Deepのトロクトライトを用いた構造・地球化学的研究
- Keywords:
- IODP expedition 345, Lower oceanic crust, Fractional crystallization, Mid-ocean ridge basalt, Porous melt migration, Melt-mantle interaction
高速拡大海嶺である東太平洋海膨に隣接するHess Deepから、Integrated Ocean Drilling Program Expedition 345の掘削により、トロクトライトが採取された。このトロクトライトは、岩石組織の違いに基づいて3つのグループに分けられた:(1)粗粒(直径1~10 mm)なトロクトライト、(2)細粒(直径~2 mm)なトロクトライト、(3)骨格状カンラン石を含むトロクトライト。全てのトロクトライトはマグマ性の微細構造を示し、マントルかんらん岩の同化を示すような岩石学的特徴は確認できなかった。トロクトライト中のカンラン石、斜長石、単斜輝石は、Hess Deepで既に採取されているガブロとハルツバーガイトの中間的な主要元素組成を示した。また、Hess Deepにおけるトロクトライト中のカンラン石、斜長石、単斜輝石の微量元素組成は、低速拡大海嶺起源のトロクトライトの組成と重複した。鉱物化学組成を対象として熱力学計算を実施したところ、Hess Deepのトロクトライト形成には分別結晶作用が主要なプロセスであることがわかった。細粒トロクトライトは結晶化速度が早いことが示唆され、相対的に冷たいガブロに熱いマグマが注入されたと考えられる。対照的に、粒間メルトを含む未固結トロクトライトと新たに注入されたメルトとの相互反応により、骨格状カンラン石を含むトロクトライトが形成されたと推察される。以上のように、Hess Deepにおいてトロクトライト形成のために複数回のメルト注入やそれに伴うメルト-岩石相互反応が起きたことが示されたが、分別結晶作用がHess Deepの下部地殻形成の主要なプロセスと結論される。