日本列島における最近のスロースリップイベントに伴う歪の蓄積と解放の関連性
- Keywords:
- GNSS, Slow slip event, Strain accumulation and release, Tokai region, Boso-Oki, Shikoku region, Tohoku-Oki earthquake, Subduction zone
本研究では、日本列島付近に位置している沈み込み帯である駿河トラフ、相模トラフ、南海トラフ沿いで近年発生した3つのスロースリップイベント(slow slip event; SSE)について、SSEの発生前の歪、すなわち、前回のSSE発生以後に蓄積された歪とSSE発生時に解放された歪の関連性を調べた。解析対象としたSSEは、東海長期的SSE(long-term SSE; 以後L-SSE)(2013年~2016年)、房総沖短期的SSE(short-term SSE; 以後S-SSE)(2018年)、四国中部L-SSE(2019年~2021年)の3つである。解析にあたって、大地震に伴う余効滑りを表すとされている指数関数と粘弾性応答を表すとされている対数関数の両方を用いた式を適用してカーブフィッテングを行うことにより、2011年東北地方太平洋沖地震(Mw9.0)に伴う余効変動を除去した。その結果、上記の3つの全てのSSEの面積歪、及び房総沖S-SSEの最大剪断歪に関して、地表面における歪の蓄積域と解放域が一致し、蓄積域では収縮が、解放域では膨張が見られた。また、相関係数を用いて定量的な解析を行った結果、歪の蓄積と解放の間に強い負の相関が見られた。さらに、歪の蓄積量と解放量を比較したところ、蓄積された歪に対し、東海L-SSEでは約3割、四国中部L-SSEでは約4割、房総沖S-SSEでは約6割程度の歪が解放されたことがわかった。このことは、蓄積された歪がすべてSSEの発生によって解放されているわけではないことを示唆している。四国中部L-SSEにおける約4割の歪の解放は、過去に発生した同L-SSEの規模が小さかったことが影響している可能性があることがわかった。また、房総沖S-SSEにおける約6割の歪の解放は、本研究ならびに我々の先行研究で解析した他のSSEと比較してもかなり大きな値である。房総沖S-SSEは通常、群発地震を伴うことが知られているが、今回のS-SSEに伴う群発地震の発生数が従来のS-SSEよりもかなり少なく、群発地震の発生による歪の解放が少なかったことが、約6割という高い歪の解放の割合の一因となったものと考えられる。