日本語要旨

日本近海の海域火山から噴出する軽石の漂流シミュレーション

2021年8月に発生した小笠原諸島の海底火山である福徳岡ノ場の噴火において、放出された大量の軽石が日本の多くの港や島に到達し、漁業や海運に深刻な被害を与えたことは記憶に新しい。歴史を遡ると、日本近海では火山噴火によって軽石が放出され漂流する現象が数十年に一度の頻度で起こっている。その中で2021年の現象が特に耳目を引いたのは、輸送の遅延などがより我々の生活に深刻な影響を及ぼし、自然災害に対する頑健性が一層求められる社会となったためだろう。福徳岡ノ場の軽石漂流問題は、自治体などの関係者が噴火前に事前に計画を立て災害軽減策を講ずる必要性を示唆している。そこで本研究では高解像度の海洋再解析データセットの流速場を用いて軽石の漂流シミュレーションを実施し、日本近海の主要な海底火山や火山島で噴火が起きた際、軽石がいつ、どの程度、どのような経路を経て島嶼や交通量の多い海峡等に到着するかを明らかにした。軽石の放出源として、最近100年間で頻繁に噴火が確認されている、西表島北東部の海底火山、伊豆東部火山群、三宅島、明神礁、西之島、海徳海山、福徳岡ノ場の7つを選んだ。

まず、1986年に起きた福徳岡ノ場噴火で噴出した軽石の漂流シミュレーションを行い、我々のシミュレーション手法が当時記録された軽石の漂着履歴をほぼ正確に再現できることを示した。そこで、同じシミュレーション手法を使って、上記7火山から軽石が漂流した場合のシミュレーションを行った。例として、西表島北東部火山からの漂流シミュレーション結果を図1に示す。このようなターゲットとする島や海峡に軽石が噴出後どれくらいの期間でどの程度の量到達するかを示したシミュレーション結果は、さまざまな社会インフラに対する軽石漂着の将来的なリスク評価に役立てることができるだろう。