日本語要旨

波照間島および与那国島での大気観測に基づく中国からの化石燃料起源CO2排出量の準リアルタイム推定

波照間島および与那国島における大気中の二酸化炭素(CO2)およびメタン(CH4)の観測データを用い、中国から排出される化石燃料起源CO2(FFCO2)の排出量変化を準リアルタイムに推定する手法を開発した。両島は冬の間、東アジアモンスーンの影響により大陸の風下に位置するため、しばしば高濃度のCO2およびCH4が観測される。この時、CO2とCH4の変動比(ΔCO2/ΔCH4比)は主に中国からのCO2とCH4の放出量比を反映することがこれまでの研究から明らかにされてきた。例えば、ΔCO2/ΔCH4比は2000年代に増加傾向を示し、2020年2月には急激な減少を示したが、前者は中国の経済成長に伴うFFCO2排出量の増加を、後者は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大阻止のため中国で実施されたロックダウンによる経済活動の停滞を、それぞれ反映したものと考えられた。そこで、大気輸送モデルを用いてΔCO2/ΔCH4比と中国のFFCO2/CH4放出比の関係を解析し、両者の間に直線関係があることを明らかにした。したがって、この直線関係を用いて冬季(1~3月)に観測されるΔCO2/ΔCH4比を中国におけるFFCO2/CH4放出比に変換できる。さらに、冬季のCH4放出量の年々変化は小さいと仮定できるので、放出比の変化率をFFCO2排出量の変化率と読み替えることができる。本手法を用いて、2020年から2022年のFFCO2排出量の変化を直前9年間(2011-2019年)の平均値からの変化率として推定したところ、経済指標等に基づくボトムアップ手法による推定結果とよい一致を示すことが分かった。1~3月の3か月間の平均変化率は2020年に−10±9%と減少したが、2021年に15±10%、2022年に2±9%となり、2021年以降中国の経済活動がCOVID-19の影響を脱したことと整合的な結果となった。2022年の排出量は若干低下したが、これは上海でCOVID-19が再拡大したことと関連している可能性がある。