2011年東北沖地震の高分解能断層モデルにもとづく浅部大すべりに対する新しい力学的視点
- Keywords:
- The 2011 Tohoku-Oki earthquake, Ocean-bottom pressure gauge, Tsunami, Stress drop, Frictional strength of megathrust, Plate mechanical coupling
2011年東北地方太平洋沖地震(東北地震)では,宮城沖のプレート境界浅部において50 mを超える大すべりが生じた.従来,プレート境界浅部は安定すべり領域のため,地震すべりを起こさないと考えられていた.それにもかかわらず,このような大きなすべりが生じたため,これまで原因が広く考察されてきた.本研究では,震源直上の水圧計による津波波形と海陸の地殻変動観測データをもとに高解像度な震源断層モデルを推定し,この浅部の大すべり原因を議論した.
解析により得られた断層モデルからは,宮城沖の領域に海溝軸まで進展する大すべりが推定された.最大すべり量は,海溝軸ごく近傍において約53 mとなった.断層モデルに基づいて断層面上でのせん断応力変化 (応力降下) を計算すると,海溝軸の付近では応力降下は小さく (< 3 MPa),深部の震源近傍に大きな応力降下 (> 5 MPa) が得られた.この応力降下の分布からは,東北地震の原動力となった歪みエネルギーの蓄積は,大すべりを起こした浅部ではなく,深部のプレート間の力学的固着が担っていたことが示唆される.
本解析結果は,浅部のプレート境界は応力を解放することなく大すべりを引き起こすことができることを意味する.この解析結果は,一見すると,従来の浅部は安定すべり域であり応力を蓄積しないとする考えに矛盾しているようにも見える.しかし,地震間プロセスにおいてプレート境界深部の力学的固着が浅部側を支えることにより,浅部ですべり遅れを生じると考えれば合理的に解釈可能である.すなわち,この深部固着による浅部すべり遅れが,東北地震の浅部大すべりの要因であると考えられる.深部に蓄積された歪みエネルギーが浅部の大すべりの要因となりうることを踏まえると,東北日本以外の沈み込み帯においても,プレート深部に歪みエネルギーが十分に蓄積されていれば,浅部が固着していなくとも大きなすべりが生じうる可能性を本結果は示唆している.