原始地球海底熱水系で有機溶媒として働く液体/超臨界CO2:化学進化の場としての重要性
- Keywords:
- Origin of life, Liquid and supercritical CO2, CO2 hydrate, Seafloor hydrothermal vent, Prebiotic chemical evolution, Phase separation, Organic solvent, Interface reaction, Metal dissolution
生命誕生の場について、干潟説、海底熱水説、陸上温泉説、宇宙飛来説等多くの仮説が提唱されている。中でも海底熱水系は、生命が代謝を開始・維持する条件が整っていることや、宇宙線などの地球外からの致命的な影響を受けないなど、生命誕生の場として有利な条件を持っていると考えられる。その一方、海底熱水系は海水で満たされており、生命の誕生に必要な有機物や生体高分子が水によって分解されやすく、前生物的化学進化が困難である、という「ウォーター・パラドックス」とよばれる欠点が指摘されていた。そこで本研究では、1) 現在の深海底には熱水噴出孔の周辺や海底下に液体/超臨界CO2を貯留する海底熱水系が存在すること、2) 液体/超臨界CO2は疎水性有機溶媒に似た化学的特性を持ちドライな環境を提供すること、を考慮して関連する研究のレビューを行った。そして、レビューに基づく理論的考察によって、原始地球にも液体/超臨界CO2を貯留する海底熱水系が存在し得たかどうかを検証した。その結果、現世の海底熱水系の海底下で液体/超臨界CO2が発生し保存されるメカニズムや、初期地球の海底熱水系でも液体/超臨界CO2が発生していたことを示す地質記録が複数存在することなどを示した。このことは、生命が誕生した原始地球においても、液体/超臨界CO2を貯留する海底熱水系があった可能性が高いことを示している。そして、液体/超臨界CO2中では有機分子の脱水縮合が起こりやすく、また、海水や熱水などH2Oに富む流体との境界では両親媒性分子が安定化し自己組織化する可能性がある。このことは、原始地球の液体/超臨界CO2を貯留する海底熱水系はむしろ化学進化が進行しやすい環境であったことを示唆している。以上の考察から、本研究では前生物的化学進化が海底熱水系の液体/超臨界CO2によって支えられたとする「液体/超臨界CO2仮説」を提案する。この仮説は、これまでの海底熱水説の弱点である「ウォーター・パラドックス」を克服するだけでなく、海底熱水系が化学進化も効果的に促進する生命誕生の場であったとする新しい概念を提供するものである。