日本語要旨

プチスポット火山中に産するマントル捕獲岩に基づく太平洋プレート西部の岩石構造

海洋プレートを構成するリソスフェアマントルは、海洋地殻が生産される中央海嶺において溶け残ったカンラン岩で構成されると考えられている。このようなカンラン岩は液相濃集元素(溶け残る鉱物よりもマグマへ優先的に移動する元素)に乏しいことが想定されるが、海洋リソスフェアのマントルにはより液相濃集元素に富む岩石も存在することが知られており、それらはマントルを構成する岩石がマグマと相互に反応した結果できたものであると考えられる。これまでリソスフェアマントルの実態は、中央海嶺近傍やオフィオライトに産する岩石、およびホットスポット火山がもたらした捕獲岩により明らかにされてきたが、今回我々は「プチスポット火山」に産する捕獲岩に注目した。プチスポット火山は、沈み込む海洋プレートの屈曲によりプレート直下のマグマが噴出し形成された海底火山である。ゆえにその捕獲岩はホットスポットの影響のないリソスフェアマントルの実像を把握することができる。

本研究で捕獲岩が得られた場所は、1億6千万年前に形成された太平洋プレート最古部のマントルであり、マリアナ海溝に沈み込む手前に位置する。このような場所のマントル岩が得られた事例はなく、それらの構成鉱物種や化学組成、および温度圧力推定値は、沈み込むプレートの実態を探る上で貴重なデータとなった。その結果、浅い方から液相濃集元素に枯渇したカンラン岩、肥沃なカンラン岩、肥沃な輝岩というプレートの岩石構造が判明した。最も低い平衡温度・圧力を示す枯渇カンラン岩は、かつて中央海嶺で溶け残ったカンラン岩と一致する一方、肥沃なカンラン岩および輝岩は、同地域で過去に起きたプチスポットマグマ活動によりマントル中に形成された交代物質由来であることがわかった。この結果は、日本海溝手前の事例と類似することから、海溝で沈み込む直前のプレート屈曲場において、同様の現象が全球的に起きている可能性を支持する。このような沈み込む直前における海洋プレートの局所的な温度・岩相構造の改変はプレートの物性変化を伴うため、沈み込むプレート境界付近の断層運動や変形構造などのメカニズムを紐解く鍵にもなるだろう。