東北地方太平洋沖地震前後における三陸沖陸棚斜面の底層水環境の変化
- Keywords:
- The 2011 off the Pacific coast of Tohoku Earthquake, Deep-sea bottom-water environment, Continental slope, Turbidity, Sediment resuspension, Dissolved oxygen, Dissolved inorganic carbon, Methane
2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震は三陸沖南部で発生し、主に三陸沿岸全域に強力な地震動や甚大な津波が襲来した。本震や数多くの大きな余震は、大陸棚から陸棚斜面、海溝底に至るまで、大規模な土砂等の流入により海底地形や海底表層状況が変化した。そこで、2011年3月の東北地方太平洋沖地震が三陸沖陸棚斜面の底層水環境をどのように変化させたかを調べるため、2011年から2018年の間に、海面から海底2000dbarまでの船舶観測(水温・塩分・溶存酸素・透過度・栄養塩・溶存無機炭素・アルカリ度・メタン・メタン炭素同位体)を実施した。また、大槌沖1000dbarで海底係留観測(水温・塩分・溶存酸素)を行った。さらに、2005~2015年の気象庁で実施された三陸沖の船舶観測の結果も用いた。
本震後の観測結果から、福島沖から八戸沖までの広範囲に渡って、三陸沖の陸棚斜面の底層には濁度の高い層(最大6%)が存在し、その存在は2018年まで確認された。この高濁度層は、本震後、頻繁する大規模な余震による堆積物の再懸濁により発生していた。加えて、本震前後の気象庁・JAMSTEC等の観測結果を比較したところ、水深1000と1500 dbar(等密度面27.38σθ、27.56σθ)の底層水の溶存酸素濃度は有意に約10%低下し、その低下は2018年まで続いていたが(図)、栄養塩と溶存無機炭素は大きな変動を示していた。陸棚斜面の底層水では、濁度が増加すると、溶存酸素・硝酸塩が減少、リン酸塩・溶存無機炭素・メタンが増加するという有意な相関関係が見られた。これは、地震後、バクテリア等の呼吸と脱窒による懸濁有機物分解が底層水の化学環境を変化させたことを示している。さらに、本震と断続的な大きな余震による堆積物の再懸濁が、広範囲に渡るこの陸棚斜面の底層水環境の変化を維持させていたことがわかった。