日本語要旨

東部津軽海峡における津軽暖流流軸の数日〜数週間周期の変動

津軽海峡東部は、津軽暖流により運ばれてくる相対的に高温・高塩分の水塊と、亜寒帯系の低温・低塩分の水塊の合流域となっている。また海峡東部では、津軽暖流の流路や鉛直構造が季節によって大きく変化し、特に成層期(夏期や秋期)には中央部でジェット的な構造が顕著となる。本研究では、観測船によって約十年間にわたり蓄積された定線データに加え、海洋研究開発機構 (JAMSTEC) むつ研究所の維持する海洋短波レーダー(HFR)によって得られたデータと、日本沿海予測可能性実験 (JCOPE) により得られた時空間高解像度データセット(JCOPE-T DA)を用いて、津軽暖流流軸の変動について、数日から数週間程度の周期変動に着目し解析を行なった。その結果、特に成層期に、1日から14日のタイムスケールをもつ流軸変動が顕著になることが明らかになった。14日程度の変動は、津軽海峡東部の中でも西側の領域でより明瞭であり、同海峡の潮汐に伴う変動と整合的であった。他方、HFRによって検出された成層期の流軸蛇行の代表的な東西スケールは、内部変形半径の数倍程度であった。この東西空間スケールは数日程度の変動と対応していた。さらにJCOPE-T DA 出力から、蛇行の位相が水深とともに進行していることが示唆された。流軸の数日程度の変動の伝播速度は、2層モデルに基づく傾圧不安定の伝播速度と良い対応を示した。この数日程度の変動は、海峡上の季節風が東風から西風に変わる、夏から秋にかけての風の変動と比較的高いコヒーレンスを示した。さらに、汐首岬周辺(東経141度付近)や尻屋埼周辺(東経141.5度付近)などの特徴的な地形から離れた海峡東部の中央領域では、平均場から渦場へのポテンシャルエネルギーの変換が(上記地形周辺での運動エネルギーの変換とともに)示唆された。以上の結果は、夏から秋にかけて、数日周期で生じる風の場の変動により海峡東部で傾圧不安定が生じていることを示唆する。このような不安定は、海峡東部での南北水塊混合や成層の維持に寄与しているものと考えられる。