オーストラリア北西沖の陸棚における後期更新世から完新世の環境の記録としての翼足類 Heliconoides inflatus
- Keywords:
- Carbonate ion concentration, pelagic gastropod, Indo-Pacific Ocean, Limacina dissolution index, carbon and oxygen isotopes, sedimentary core record
過去における海洋の化学組成の変化の記録者として,翼足類に対する関心が高まりつつある.しかし,浅海域の数千年オーダーの堆積物記録に関する研究では,翼足類はほとんど利用されていない.本研究では,オーストラリア北西沖の陸棚棚(NWS)から過去16000年間の古海洋データを取得した.炭酸塩飽和度の変化は,浮遊性翼足類Heliconoides inflatusの殻の炭素同位体比(δ13C)と溶解の度合いを表す指標(Limacina dissolution index;LDX)に基づいて評価した.また,翼足類の石灰化深度は,翼足類殻の酸素同位体比(δ18O)と海水・塩分の関係をもとに推定した.その結果,H. inflatusは水深95〜140mで石灰化することが判明し,NWS上における浅海のシグナルが記録されていることが確認された.翼足類のδ13C値は,8.5 ka以降に炭酸イオン濃度が顕著に減少したことを示す.これは,後氷期にNWSに湿潤な環境が出現したことと関連している.翼足類の殻の保存状態は過去16000年間を通じてよく,LDXの値は低い.したがってLDXは,NSWに代表される炭酸カルシウムに関して非常に過飽和な浅海環境において適用するには感度が低いと思われる.従来,H. inflatusから得られる代替指標は,外洋の環境でのみ利用されてきたが,本研究の結果はH. inflatusのδ13C値が浅海域の炭酸イオン濃度の代替指標として有用であることを示している.