日本語要旨

アンサンブル・カルマンフィルタベースのパラメータ推定手法における精度と収束速度: 信頼性が高くかつ効率的な推定を行うためのパラメータ不確実性の設定について

大気モデルの誤差を低減し、正確な気象・気候シミュレーションを実施するためには、大気モデルの物理スキームに含まれるパラメータ値の最適化が不可欠である。近年、従来のパラメータチューニングに代わり、アンサン・ブルカルマンフィルタ(EnKF)ベースの自動パラメータ推定の手法が試みられている。EnKFベースの手法では、推定対象のパラメータがフィルタ発散することを防ぐため、パラメータ値のアンサンブル・スプレッド(ES)に何らかのインフレーションを適用し、パラメータの不確実性の幅を維持する必要がある。ここで、推定の期間を通じてパラメータ値のESの大きさが一定に保たれるようなインフレーションを適用する場合、推定の精度や収束速度はESの大きさに依存する。しかしながら、ESをどの程度の大きさに設定すれば推定の精度や収束速度が最適化されるかについて、統一した見解は得られていない。本研究では、信頼性が高くかつ効率的なEnKFベースのパラメータ推定手法の確立に向けて、パラメータ推定の精度と収束速度のES依存性を検証した。この検証は、雲微物理スキームのパラメータを推定対象とする理想実験に基づき実施された。実験の結果、ESが小さくなるほど推定精度は向上するものの、それ以上は精度が向上しないESの下限値が存在し、精度の観点から最適なESが決定可能であることが示された。一方、収束速度はESが大きくなるほど速くなる。本研究では、パラメータ推定の時系列を一次の自己回帰(AR(1))モデルにより近似し、推定の精度と収束速度をAR(1)モデルの2つのパラメータ(自己回帰パラメータとランダム擾乱の振幅)により定式化した。ESが大きくなると、自己回帰パラメータが減少し、ランダム擾乱の振幅は増加する。推定精度は両者のバランスによって決定される。AR(1)モデルによる近似は、パラメータ推定の精度と収束速度を最適化するESを決定する際の定量的なガイドラインとなるだろう。