日本語要旨

凝集する湿った砂を用いた浸透誘発の地すべり実験

土壌は固体の粒と間隙の水、空気から成る、不飽和な粉粒体であり、水・空気間の界面張力により凝集力を持つ。ここで水が供給されて地下水位が上昇し、土壌が水で飽和すると凝集力が失われ、地すべりが起き得る。しかし、水の飽和度の増加に伴い凝集力がどのように減少するか、その結果、地すべりがいつ、どのように誘発されるか、また、それらが地下水位(水頭:hw)、崖の高さ(H)にどのように依存するか、十分に分かっていない。そこで本研究では飽和すると凝集力が1桁減少する、湿った砂から構成される崖に地下水が浸透し、地すべりが誘発される過程を調べる実験を行った。実験では間隙水圧uばかりでなく、全応力σも測定し、有効応力σ’=σ- uの時空間変化を求めた。Hが一定(= 20 cm)の時、hwが臨界値を超えると地すべりが発生し、すべり速度は指数関数的に加速する。hが高くなるとすべりが2回起き(図参照)、最も高いhwではすべりが1回起きた後に崖全体が並進移動した。一方で、Hが高くなるとすべり面が深くなった。地下水が浸透するために要する時間はhw(H)と供に減少(増加)し、浸透率がσ’に依存する浸透流でよく説明される。全応力の鉛直成分σzは崖底面で不均一であり、アーチング(横方向の支え)により静岩圧から逸脱する。高い崖の崖面付近のσzは、最初は静岩圧よりも大きいが、浸透が開始すると(間隙水圧uが上昇する前から)減り始め、静岩圧よりも小さくなる。これは砂が水で飽和して凝集力を失い、すべり面が形成されるにつれて、応力分布が変わったことを示している。このように、σの測定は地下水がセンサーの位置まで浸透する前に変化が捉えられるため、モニタリング手法として有効である。加えて崖の安定解析も行った。その結果、すべりが起きるためには臨界hwがあること、Hが高くなるとすべり面が深くなることが説明された。一方で、安全率Fsは過大評価された。これは界面張力による水の吸い上げとσzが静岩圧以下になることが考慮されていないためである。また、すべりが1回起きることを仮定した安定解析は、実験で見られた多様な地すべりを説明できないことに注意すべきだ。