日本語要旨

エンスタタイト・コンドライト:極度の還元環境下での凝縮・変成作用及び地球物質への示唆

エンスタタイト・コンドライトは、全隕石の1%程度を占める隕石グループである。しかしながら、地球とは酸素などの同位体組成が近似していることから、地球や他の地球型惑星の始源物質に関係することが示唆されている隕石である。エンスタタイト・コンドライトには典型的な親石元素を含む硫化物、Siを含む金属、ケイ化物、リン化物などの特異な鉱物が含まれる。これらは原始太陽系星雲内での凝縮と母天体での熱変成作用が極度の還元環境下で進行したことを示唆する。エンスタタイト・コンドライトはEHとELグループに区分されるが,前者は金属鉄中のSi含有量が高く、ELグループよりも還元的な環境を示している。硫化鉱物の多くは星雲ガスから直接凝縮し、初期に溶融した球形のシュライバーサイト(Fe3P)を部分的に含んでいる。一部のトロイライト(FeS)、閃亜鉛鉱(ZnS)、ジェルフィシャーライト((K,Na)6(Cu,Fe,Ni)25S26Cl)は、金属鉄の硫化反応によって生成されたものである。エンスタタイト・コンドライトには、Ca,Alに富む包有物やFeOに富む珪酸塩鉱物クラストも見いだされる。包有物は還元環境下で二次的変質作用を被ったことを除いて、炭素質コンドライトと同じ特徴を持っている。FeOに富むクラストは二次的な還元反応を示す。これらの包有物やクラストは、原始惑星系円盤でエンスタタイト・コンドライトの主要構成物質とは異なった環境下で形成されたものが移動してきて混合したものと思われる。エンスタタイト・コンドライトの極度の還元環境(C/O比)は、原始惑星系円盤の雪線付近で氷や有機物が蒸発・凝縮を繰り返すことで実現された可能性がある。また、細粒のプレソーラー粒子がエンスタタイト・コンドライトにも含まれるが,主要な構成鉱物が高温で凝縮する間にこれらが残存できたことも形成環境を考える上で重要である。二次的加熱過程などの相違から、EHとELコンドライトは母天体への集積後、異なる熱史を経験したものと考えられる。