砂漠気候からモンスーン気候へ:チベット高原南東部における約3600万年前の不可逆的な気候変動
- Keywords:
- Desert, Late Eocene, Onset of Asian monsoon, Tibetan Plateau
インド大陸のユーラシア大陸への衝突に起因したヒマラヤ・チベット高原の隆起の影響を受けて、アジアモンスーンは新生代を通じて変化を続けてきた。後期始新世の東南アジアにおいて、既に湿潤なモンスーン気候が存在していた証拠は増えているが、モンスーン気候が成立した正確な時期は明らかにされていない。チベット高原南東部に位置する剣川盆地に分布する堆積物の岩相や気候指標は湿潤気候への変化を記録しており、湿潤化が起きた年代を特定する上で重要な手がかりを与えてくれる。本研究では堆積物に挟在する火成岩の放射年代測定によって、先行研究の年代データの拡充を行った。さらに、剣川盆地における新生代堆積物層序の再検討や、花粉群集の解析、赤鉄鉱・針鉄鉱比の測定を行い、始新世における気候の変化を調べた。その結果、この地域は中期始新世を通じて砂丘砂岩層が卓越し、亜熱帯高気圧の影響を受けて半乾燥気候下にあったと解釈されるが、約3600万年前に網状河川堆積物を伴った石炭を含む湿地堆積物の堆積が始まり、花粉群集が多様化したことは、この時期に降水量が大きく増加をしたことを示唆する。このような乾燥状態から湿潤状態への急激な変化は約3400万年前の始新世・漸新世境界以前に起きており、全球的な寒冷化が気候変動の主要な要因である可能性は低い。むしろ、チベット高原が隆起によって気候に影響を及ぼす閾値となる高度に達し、アジア地域の気候に熱力学的・物理的な影響を与え、モンスーン降雨の強化もしくは開始が、風下側に位置する剣川盆地へと広がったと考えられる。