日本語要旨

積雪量変化が北東シベリアのカラマツタイガ林生態系に及ぼす影響

冬期積雪の変化は水文学的および生物学的な変化を通して、植生に大きな変化を及ぼすと考えられる。積雪深や融雪のタイミングの変化の影響を理解するため、北東シベリアカラマツ林のスパスカヤパッド実験林において2015年12月にsnow manipulation experiment(積雪操作実験)を行った。東シベリアは、乾燥、極端に寒い冬、暑い夏と大陸性の気候で特徴付けられる。これらの条件が積雪深の変化によってどのように生態系に影響するのかを明らかにするため、土壌水分の変化、植物成長期間の変化、土壌無機態窒素量の変化を調べた。実験は、3つの処理区、snow removal (SNOW-)、snow addition (SNOW+)、CONTROL において、地温、土壌水分、植物中の水および土壌水の酸素・水素安定同位体比、葉の窒素・炭素含量と同位体比、プェノロジー、土壌無機態窒素量などの測定・観測を実施した。積雪操作のあと、CONTROLやSNOW+プロットに比べ、SNOW-プロットの地温が極端に低下した。SNOW-では他の処理区に比べ積雪量は少ないため融雪は早くおこり、春および夏の地温は高くなった。これはSNOW-プロットの乾燥した土壌によると考えられる。

SNOW-は融雪が早く、地温は高かったにもかかわらず、展葉は遅れた。葉の窒素含量もSNOW-プロットでは、他の2処理区と比較し、7月中旬まで低く、8月には他の2処理区と同程度になった。この結果は土壌無機態窒素量に対応し、SNOW-の土壌アンモニウム量は7月下旬まで低く、8月に土壌アンモニウムの生成が始まると3つの処理区は同程度の量となった。冬期の極端に低い地温と融雪—凍結サイクル、および春と初夏の乾燥した土壌状態は植物のフェノロジーと土壌無機態窒素量生成に影響を及ぼしている。