複数の基盤の高まりが衝突することによる前弧付加体の構造と力学特性の発達:数値シミュレーションによる検討
- Keywords:
- Collision, Basement topographic high, Seamount, Ridge, Forearc accretionary wedge, Numerical simulation, Subduction zone, Nankai Trough
沈み込み帯で海山、リッジ、ホルストなどの基盤の高まり(basement topographic high: BTH,)が前弧付加体に複数衝突した際の地質構造および力学特性の発達過程について概念的な地質モデルを提案した。海洋プレート上には多くのBTHが存在する。それらBTHが前弧付加体に複数で連続的に衝突する際に、どのような地質構造を作るのか、またそれに伴い付加体内部で力学的特性(応力場や間隙率)がどの様に変化するかは、これまで十分検討されていなかった。そこで、個別要素法を用いた数値シミュレーションを行い、3つのBTHが前弧に衝突した場合の影響を検討した。従来からモデル化されていた海山衝突に伴う典型的な地質構造は、最初のBTHの衝突時に再現された。その後、複数回のBTH衝突によりBTHに伴う衝突構造が繰り返し形成されることが明らかになった。具体的には、以下の①から③の変形過程を繰り返した。まず、①BTHの衝突で基底部のデコルマ(水平すべり面)が、沈み込む堆積層表面まで持ち上がり、ルーフデコルマとなる。その後、②BTHの通過後にルーフデコルマが不活性化すると、基底部に新たなデコルマが形成される。デコルマの位置が変化する際に、③不活性化したルーフデコルマを挟んで、BTHにより持ち上げられた付加体先端部とBTH後方の未変形な堆積物が、付加体に取り込まれる。付加体内部の力学場は、1つのBTHの後方(すなわち海側)の未変形な堆積物中には水平圧縮応力が低いシャドウゾーンが形成され、高い間隙率が維持される。次のBTHが衝突すると、先のBTH衝突で形成されたシャドウゾーンにおいても水平圧縮応力が高くなり、圧縮が進行し堆積物の間隙率が低下する。この一連の地質構造および間隙率構造の不均質な発展は、特徴的な間隙水圧パターンを生成する。具体的には、BTH後方で沈み込んだ堆積物は流体を保持しており、次のBTH衝突に伴う強い水平圧縮応力下で間隙率の急激な減少とともに間隙水圧が増加する。このような構造・力学状態のコントラストは、西南日本熊野沖の南海トラフ付加体と類似している。熊野沖付加体では、付加体の下部の沈み込むリッジの前方(陸側)に低速度・高間隙水圧力域が存在することから、現在のBTH衝突に伴う強い水平圧縮応力が、過去のBTHに伴い沈み込んだ堆積物内の間隙水圧を上昇させたことを示唆している。