日本語要旨

千葉複合セクションにおける下部−中部更新統(カラブリアン−チバニアン階)境界の古海洋および渦鞭毛藻シスト層序

千葉複合セクションから得られた渦鞭毛藻シスト(休眠胞子)化石の記録を用いて,下部−中部更新統(カラブリアン階−チバニアン階)境界のGSSP(国際境界模式層断面とポイント)における海洋表層環境変動の復元を行った.本研究は,この種の微化石を用いた詳細な研究としては日本の太平洋側に分布する更新統における初めての事例であり,以下の知見を得ることができた.

千葉複合セクション周辺海域は,794.2 kaから冷たい亜寒帯水塊の影響下にあったが,海洋酸素同位体ステージ(MIS)20の終了の約2千年前にあたる789.3 kaで,急速な亜寒帯前線の後退に伴う温暖化が起こった.MIS 19間氷期の最盛期期間であるMIS 19cの間,群集組成は概して暖かい表層温度を示すものの,同時に黒潮続流域の不安定性と緯度方向の移動があったことも示唆する.772.9〜770.4 kaの間(およそMIS 19bに相当)におけるProtoceratium reticulatumシストの突発的な優占は,黒潮続流の南下に起因する黒潮−親潮境界帯のより冷たく,鉛直混合により栄養塩の豊富な水塊の影響があったことを示す. 772.9 kaにおける,その突発的優占の開始層準は,1.15 m(= 1300年)下位に位置するチバニアン階GSSPに対する地域的な生態層序マーカーとして役立つだろう. 770.1kaから本研究層準最上位である765.8ka(MIS 19a)までの区間では,暖かく,おそらく成層化してはいるが,まだ高い栄養塩を維持した表層水があったことが示された.これは,間氷期最盛期であるMIS 19c終了の約5千年後に,当海域では黒潮続流が北方へ移動し,より温暖になったことを示唆する.