日本語要旨

タリム盆地南西部新生代陸成層の砕屑物供給源と岩相の変化から示唆されるテクトニクスと砂漠化の関係

タリム盆地は、世界でも最も乾燥した地域の一つで、現在ではその大部分がタクラマカン砂漠に覆われている。その乾燥化がどのように進んだかを解き明かすことは、新生代における全球的な気候変動を理解する上でも重要であるが、乾燥化が進んだ時期やメカニズムは未だ解き明かされていない。有力な仮説の一つとして、タリム盆地西側に位置するパミール高原の隆起によって湿潤な空気塊の侵入が妨げられ、盆地内部が乾燥化したという説が提唱されている。本研究では、タリム盆地の南西縁部に位置し、すでに信頼性の高い高解像度年代モデルが構築されているAertashiセクションにおいて、始新世後期から中新世中期におけるパミール高原の隆起とタリム盆地における乾燥化の関係を検証した。後背地であるパミール高原における構造運動の時期を推定するために、Aertashiセクションの河川成砂岩の粗粒画分に含まれる石英の電子スピン共鳴(ESR)信号強度測定と結晶化度(CI)、薄片観察に基づいて砕屑粒子の組成変化が起きた時期を調べた。その結果、Aertashiセクションに砕屑物を供給するYarkand川の流域において、供給源の大きな変化が約2700万年前、約2000万年前、約1500万年前に起きたことが示唆された。こうした供給源変化は後背地であるパミール高原での構造運動を反映していると考えられ、先行研究で示唆された時期ともおおむね整合的である。従来の研究では,Aertashiセクションで最古の風成砂丘堆積物が約3400万年前に出現することに基づき、同時期にタリム盆地が乾燥化した可能性が示唆されている。しかし本研究により、同時期には目立った砕屑物の供給源変化は起こっていないことが示された。これは、タリム盆地における乾燥化の開始がパミール高原の隆起に伴う水蒸気供給の減少により引き起こされたとする従来の仮説を支持しない。一方、本研究でも示された約2700万年前にパミールで起きた構造運動は、Aertashiセクションにおける最初の風成塵堆積物の出現が示す乾燥化の時期と一致しており、両者が関係している可能性が指摘される。